君にラッキョの花束を 5


以来。

なぜか大木先生は時々学園を抜け出して、
茶屋へやってくるようになった。


本人は

「学園にいるだけでは、時勢に疎くなってしまう。
 お主同様、こうして最新情報を収集しとるんだ。」

とかナントカ言っているものの。
ただ単にさぼりたいだけの気がしてならない。



苦手な相手が、前触れなく来店する。
天災のような悩み事が増えただけでも面倒なのに。





悪いこととは、得てして重なるものである。







ことの発端は、斜めはす向かいの饅頭屋。
なんとこれが喫茶の商いも始めたから、さあ大変。



実は私が働いている茶屋の主は
離れた集落で茶葉を栽培している。

そのため普段は、実質私一人で自由に営業していたのだが。
突然の競合店出現を聞きつけて、珍しく主がやってきた。



そして、客足が遠のかないよう、
今まで以上に呼び込みをやってくれと言い出したからたまらない。

こっちには、競合店の饅頭のような名物もない。



さて、どう呼び込んだものか…と返答しあぐねていると



「ほほう、面白そうだな。」
「ぅわぁ!!!」



突如、背後から大木先生の声。
驚いて、心拍数がいっきに上昇する。



「こ、こちらの方は?」


主の当然の質問に、


「まぁ保護者のようなもんで。いつも利吉がお世話になっとります。」

図々しく割り込んで飄々と話を続けるから、腹立たしい。


何でこの人には「常識」ってものがないんだろう!
おまけに気配なく、私の背後を取るその実力も憎たらしい。



「誰がっ!!違います、ただの父親の同僚ですから!!」

速攻否定する。
けれど、主は自信ありげな大木先生の発言が気になるようで。


「何かいい知恵をお持ちで?」

なんて、私をおいて大木先生に話をふり始めた。


「簡単ですよ、こいつが看板娘になればいい。」



「は!?」
「こっちには饅頭みたいな武器が無いんだから、
 それが一番手っ取り早いし元手もかからんだろう?」
「なるほど。」



非常識なくせに、的を射た発言。
主も感心して、しきりに頷いている。


「…な、こと…言ったって!」
「近所には、妹でも連れてきたってことにしておけばいい。
 向こうが食い気勝負なら、こっちは色気勝負じゃ。」
「そんな!」



より良い代案を出せない以上、
反抗しても負け犬の遠吠えに過ぎないと分かってはいるが
…悔しい。



「まさか化け物の術、できんのか?」


こそりと試すような言い草も癇に障る。
修行中の身とはいえ、ひととおりの術は会得しているのだ。

出来ないなんて言って父上の耳に入ったら、どんな小言が降ってくるか。



「…っ出来ますけど!!!」
「そうか、決まりだな。よし、服を見立ててやろう。」
「え?!」



言うやいなや、ぽいっと大通りへ放り出される。


呆気に取られる主をよそに、大木先生は私を店から連れ出した。









6へ続く

inserted by FC2 system