家族のかたち 5



「大木先生、私は…」



まさに利吉が答えを出そうとした矢先。


「!!!」


キッと大木と利吉の表情が険しくなった。
お互いが目で合図を送りあう。


遠くから近づいてくる足音。
それに入り混じる具足の音。


“残党狩りか…”


赤子を包んでいた産着を、大木の野良着に変えたとほぼ同時。
無作法に家の引き戸が開け放たれた。


「この家の主はおるか。」


二人組の武者が姿を現す。
利吉は、女装のままだったことが幸いして、
知らぬ者が見れば大木の妻だと容易く信じるだろう。

大木は特に焦るでもなく、利吉と赤子を守るように前へ出た。


「…ワシですが。こんな刻限に何用で?」


武者の一人がざっと話す経緯に、利吉は耳をそばだてる。
彼らはやはり下克上を成し遂げた敵方の手先であるらしい。

城主の首級、奥方の亡骸は確かにあらためたものの、
赤子の姿がないことに気付き、
近隣の村を虱潰しに探しているという。


「この辺りで、怪しい子連れを見かけなんだか?」
「さて、一向に。」


利吉の赤子を抱く腕にぎゅっと力がこもるが、
しれっと首を振る大木。

武者は首を伸ばし、
利吉の抱いた赤子を睨んでなおも問う。


「…その赤子は?」
「ワシの子さ。…ワシと女房に似てなかなかの美男だろう?」


昨日逃走していた時はあんなにも恐れていた残党狩り。
それが大木と一緒だとこんなにも頼もしい。
軽口をたたく大木に、利吉もすぐ余裕を取り戻した。


「まぁ、あなたったら。」


コロコロと鈴を鳴らすように微笑んでみせると
利吉の屈託ない様子に武者達は疑いを解いたようだった。


「そうか。何か見かけたら知らせてくれ。…おい、次いくぞ。」
「ご苦労様です。」


形ばかりの労いの言葉で武者たちを見送る大木。
遠のく足音に、利吉もほっと一息ついた。


「…違和感なく、家族に見えていたんでしょうか。」
「見えてたさ。だから怪しまれなかったんだ。」
「…そうです、よね…。」



さっき言いかけて途切れた言葉を
利吉はもう一度心の中で反芻する。


“大丈夫……大丈夫…”


本当の両親には遥か及ばないけれど。
それでも、この子が育つために十分な環境がここにはある。

陽の光。
土の匂い。
温かい人。

守りたいものを守れる強さを、今度こそ育んでいこう。



息を吸って、大木先生の目を見て。

「大木先生!」
「ん?」
「私は、先生と杭瀬村でこの子を育てたいです!」
「……!」


利吉の突然の告白に大木は目を丸くしたが、
すぐに満面の笑顔を浮かべた。


「そうか!…そうか!」


何かをかみ締めるかのように、力強く頷いて。
利吉を抱き寄せた。


「やっと掴まえた。もう離さんぞ。」


首筋に顔を埋めた大木の声は、かすかに震えている。
太陽と土の匂いのする髪に、利吉も頬を寄せた。


「5年…待って下さって有り難うございます。」
「なんの、それしきの時間で利吉が手に入るなら早いものよ。」

「…安心したら、お腹が空いてきました。」
「おお、そうだった。さあ、夕餉にするか!」


鼻を啜りながら、大木が顔を上げる。


大木と利吉、そして赤ん坊。


囲炉裏端で夕餉を囲むその光景は、立派に家族の形を成していた。












…あとがき…

珍しくあとがき、です。

「家族のかたち」は利吉さんが15歳で独り立ちして、
5年くらいの…20歳になった時、こういうことが起きて
忍びの道よりも杭瀬村での生活を選んでくれたらなぁと
思って書いた話でした。


このままほんとに子供を二人で育て始めて、
更にそれがきっかけで孤児院みたいに戦争遺児を引き取って
ワイワイ暮らす二人…とか。

この後、生き残って下克上の恨みを晴らし、
御家復興を遂げた家臣が、赤ん坊を捜し求めていて
結局元の場所へ子供を返し円満解決、とか。

後日譚は色々パターンとしてあるものの、
それはまぁどっちでも良くてですねwww(オイ


「二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。おしまい☆」みたいな。

カエルにとってある種完成形というか…
大木×利吉というカップリングで
考えられる最上級のハッピーエンドなのでした。




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