夏の盛り


抜けるような晴天
遥か聳える雲の峰

生命力に溢れた色濃い緑
耳を塞ぐ蝉の合唱


暦は大暑、三伏の候。


眩しい日光が、旅装束の青年の白皙へ
くっきりと陰影を残す。



幼さ残る生え際にうっすら汗も滲む頃。
青年は峠に差し掛かっていた。




…かりん、かりん。


涼しげな音にふと視線を向けると
掘っ建ての茶屋がひっそり、そこにある。


急ぐ旅路ではない。


丁度良い。このあたりで一服…と
青年は腰掛に座り、主へ茶を所望した。


日陰に入るだけでも大分と涼しい。
ほう…っと人心地をついた息を漏らす間に。


質素な湯飲みが手元に出され、
茶を哺むと、口唇は瑞々しく艶めいた。



この峠を下りきれば、里に出る。


“里には、夏の太陽にも負けぬ、眩い笑顔のあの人がいる。”


物思いに知らず浮かぶ笑み。

次の風鈴が鳴ったら此処を発とう、と。
暑さに乱れた襟元を正し、手拭いで首筋を押さえれば。


まだ女子と見紛うばかりに細いうなじで、
柔らかな後れ毛が揺れた。














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