不惑の翌年に。2



1日目。


喜三太の足跡を辿ってオーマガトキ領に残った厚着は、
夕暮れと同時に滝夜叉丸・左門を連れて今晩の宿へと入った。


川の渡し場に近い、一軒の飯屋。


馬を繋いでおける離れが宿も兼ねており、
そこに泊まることは、報告に発った日向とも
あらかじめ打ち合わせてある。


普段は旅人などに酒や食事を供するこの店も、
さすがに一ヶ月前の戦さの影響からか、他の客はいない。



そろそろ日向が戻ってくるかと思っていると、
戌の刻ごろ闇に紛れて現れたのは、
6年生の立花仙蔵ともう一人、意外な人物。

同僚の息子であり、フリーでプロの忍びとして
活躍する青年・山田利吉だった。



部屋へ通された利吉は、
利害が一致した…という理由だけ明かした上で、
仙蔵とともに事の次第を話し始める。


集合場所の廃寺は、
日没後すぐにタソガレドキ忍軍から奇襲を受けたらしい。
陽動を引き受けた彼らは追っ手を撒き、
日向から聞いていたこの宿を一路目指したということだった。




「それはご苦労だったな」



労いの言葉をかけながら、
二人とも目立ったキズ一つないことに、
安堵の笑みが漏れる厚着。


さほど疲労の色もない利吉と仙蔵は、続けざま
山田・土井組が園田村へ、日向組が学園へ援軍を頼みに
発った事を報告した。


それを聞くかぎり
園田村を取り巻く事態は風雲急を告げているようだが、
厚着たちの任務は変わらない。


むしろ利吉という協力者を得て、
厚着としては動き安くなっている。

昼間集めた喜三太絡みの情報をまとめ、
翌日の救出作戦を立てるのにそう時間はかからなかった。





一通りの話が済んだら、お待ちかね。
皆で揃って賑やかな夕餉となる。


屋外に怪しい気配もなく、
オーマガトキ城下の夜は静かなものだ。


「大勢で食事を取るのは楽しいですね」
「ああ、それに珍しい顔ぶれだからな。新鮮だ。」


そんな他愛ない話を紡ぎながら
厚着は利吉と笑いあう。


胸中にわだかまる悩みなど忘れてしまうほど、
穏やかな時間が過ぎていった。




***



しばらくすると宿の主人から風呂の用意が整ったと、声がかかる。


学園の風呂と違いさすがに全員が一度には入れない。
厚着の配慮で、森を抜けてきた仙蔵と利吉が先に、
次いで左門・滝夜叉丸・厚着の三人が風呂を使う。


湯上りに再度明日の作戦を復習し終えると
「今のうちにしっかり寝ておけ」という厚着の言葉に従って、
生徒達はすぐ布団に入った。


久々の実戦と外泊という非日常にはしゃいでいる彼らだが
明日陽が落ちればいよいよ作戦決行であるから、
今晩はしっかり体力を蓄えておく必要がある。
とりわけ仙蔵は作戦を終えたら園田村へ伝令に走る手筈だから尚更だ。



初めこそヒソヒソと楽しげな小声も聞こえたが、
じきに穏やかな寝息が漏れ始める。


忍たまたちが眠る奥の間の襖をそっと閉めると、
厚着と利吉も手前の部屋で布団を延べた。




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