恋と純朴 8


「……っ」
圧し掛かられると息が詰まる。

常日頃大海原を相手にしている海賊と
陸で諜報活動を主とする自分ではこうも差が出るものだろうか。

“これでも結構鍛えてるのに…”

なんて漠然と思いながら。


噛み付くような口付けを繰り返し受ければ、
元結が解け布団の上に長い髪が流れた。
性急に袴に手が掛けられたかと思いきや
あっという間に剥ぎ取られる。

「ゎ……!!!」

乱暴…とまでは行かないが、この荒っぽさ。
戸惑いに立ち止まる隙さえ与えて貰えない。


「…綺麗っすね…」
「へ?」
「あ、いや…足とか、肌とか…白くて…」
「え」
「…全部…すげぇ綺麗だ…」
「…ぇ…ぁ…」


真顔で、この人にそんなことを言われる日が来るとは…
利吉は恥ずかしさに顔から火が出る思いだった。

舐めるように見つめられる視線に、
体が震えて小袖を手繰り寄せ肌を隠すが。
却ってその仕草に、鬼蜘蛛丸の目が、知らず捕食者のものへと変わる。

煩わしそうに自分の下帯を外し、利吉の手首を掴んで
猛る己の下肢に触れさせた。

「……ぇ…!?」
「利吉さん可愛くて…」

慌てて手を離そうとするも、大きな手にすぐ握りこまれて
また導かれ。

「ダメです、握って…ちゃんと、そう。」


笑顔でたしなめられると利吉は弱い。
おずおずと、手で鬼蜘蛛丸を包み込み、
拙いながら必死に刺激を与え始める。

応えるように鬼蜘蛛丸も、利吉の下肢に手を伸ばし、
彼の感じる部分を探して責め始めた。


「ぅ…ぁ…鬼、蜘蛛丸、さん…っ」

口付けと手淫で、次第に体の熱が上がってゆく。

「――――――ぁぁあっ!!」


時をおかず、鬼蜘蛛丸からの激しい愛撫に耐えかねて、
利吉は体を弓なりに反らせ達したが。
途中から手が止まってしまったため、鬼蜘蛛丸はなお
痛いほどに張り詰めたままである。

「す、すみません…」
「いえ、これで…こっちを…。」
「ぇ…あ…っ!!!!」

利吉の脚を広げ、秘所へ手を滑り込ませる鬼蜘蛛丸。
放たれた利吉の精を塗りこめて、強引に指を侵入させた。

「ゃ…!!!」

うっすら涙を浮かべて紅く染まる目尻が、
強烈な色香を放つ。
体を強張らせる利吉の耳に、ぴたり、口唇を寄せて。

「好きです、利吉さん…入れていいですか?」
「…ぁ、あ!……っ!」

同意を得ようと熱く囁くものの、
利吉本人は、押し広げられる苦しさと羞恥、
こみ上げる切なさと愛しさで、返事さえままならない。

ただ、決して拒絶するそぶりは見せず、
鬼蜘蛛丸の肩口に顔を埋め、必死に背にしがみついている。
その健気さが鬼蜘蛛丸を安心させ、
返事を待たぬままに指の数を増やしていった。


「…ぁ…ああっ…」

次第に抽送にあわせ、利吉から漏れる声にも、
どこか艶を含んだ喘ぎが混じると。
我慢の限界に来たらしい鬼蜘蛛丸は、利吉の腰を抱え
自らを利吉の秘所へ宛がい。


そして、ゆっくりと埋め込んでいった。

「!!!…は!あ…っ!」
「ぅ…利吉さん、きつ…」

根元まで埋め込まれた利吉は、ただただ鬼蜘蛛丸に抱きつくばかりだったが、
熱く柔らかな肉壁に包まれた鬼蜘蛛丸は、もう堪えきれるものではない。

更なる刺激を求めて、腰を動かし始める。

「ひあ…っ!」

早まる律動。


無意識に快楽から逃げようとする利吉の腰を、
いっそう強い力で引き戻し、穿ち続けて。

汗でしっとり湿った利吉のうなじに
鬼蜘蛛丸が噛み付いた瞬間。

知らず利吉の秘所は、愛しい男を食い締めて。

「く…っ!」
「…!!あああぁっ!!!!」

体の内で鬼蜘蛛丸がビクビクと大きく撥ね、
熱い体液が注ぎ込まれる。

真っ白になった思考のまま、
達したばかりの鬼蜘蛛丸の体重を受け止めた。

すると、ふわり。
利吉は、自分の肌からもかすかに潮の香が
ただよっているのに気付いた。

随分と野性的ではあるが
こんな移り香・残り香も悪くない。
そんな風に思う。

嬉しくて薄く微笑むと、頬に汗を浮かべた鬼蜘蛛丸と
至近距離で目が合って。

二人、照れたように笑いあった。






9へ続く

inserted by FC2 system